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福岡高等裁判所 昭和40年(ラ)30号 決定

抗告人 国

訴訟代理人 高橋正 外三名

相手方 丸和商事株式会社

主文

原決定を取り消す。

抗告人の補助参加の申立を許可する。

本件補助参加の申立に対する相手方の異議により抗告人と相手方との間に生じた訴訟費用は、原審及び当審を通じて相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は主文第一、二項と同旨の裁判を求め、抗告理由の要旨は別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

先ず、本件記録によると、抗告人が被告補助参加を申立てた福岡地方裁判所小倉支部昭和三九年(ワ)第四一九号取立金請求事件(以下単に本件訴訟という)における原告(相手方)主張の請求原因事実の要旨は、「原告は訴外債務者有限会社とりや商店に対する小倉簡易裁判所昭和三九年(ロ)第七八号、同第八〇号にかかる額面合計金三〇万円の約束手形金請求の執行力ある支払命令正本に基づき、右とりや商店が被告(社団法人北九州銀行協会)に対し右約束手形の不渡による取引停止処分の猶予を受けるため、訴外小倉信用金庫木町支店を通じて被告に提供した異議申立提供金三〇万円の返還請求権につき、被告を第三債務者として福岡地方裁判所小倉支部昭和三九年(ル)第八三〇号、同(ヲ)第八四三号債権差押並びに取立命令を得て、その支払を求めたが、被告がこれに応じなかつたので、本訴に及ぶ」というにあること、及び抗告人の被告補助参加申立理由の要旨は「右とりや商店が抗告人に対し国税、同滞納処分費合計金三一万四、五一九円を滞納していたので、すでに抗告人において右とりや商店が前記小倉信用金庫に対して有する右異議申立提供金に供すべき委託金三〇万円の返還請求権を差押えているが、もし本件訴訟で原告が勝訴し、被告協会より右提供金の引渡を受けてしまうと右金庫が更に被告から右提供金の返還を受け得られないこととなり、抗告人の右差押処分の徴税実現ができなくなるから、抗告人は本件訴訟の結果につき利害関係を有するので、参加申立に及ぶ」というにあることが明らかである。

しかるところ、成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一ないし第三号証、原審証人古賀五郎、同重任茂、同本城忠治の各証言に徴すれば、前記とりや商店が本件約束手形の不渡による銀行取引停止処分の猶予を受ける趣旨で、同手形金相当額の金三〇万円を前記小倉信用金庫に委託し、ついで右信用金庫から右金三〇万円を異議申立提供金として被告協会に提供したものであることが認められると共に、右異議申立提供金は前示乙第一号証の北九州手形交換所交換規則第二三条、第四〇条に則り右手形交換所加盟銀行の代理交換委託者である右信用金庫が本件約束手形の支払銀行(返還銀行)として、右手形の支払義務者である前記とりや商店に支払能力のあることを証明するため被告協会に提供したものであつて、右規則よりすれば右手形の支払義務者であるとりや商店から直接被告協会に提供することはできない立前となつている上に、右規則第二三条付帯決議により右返還銀行において右提供金の返還請求権を有することが定められていることが認められ、右認定を左右できる証拠はない。さすれば、右返還銀行が被告協会に右異議申立提供金を預け入れた行為は、右返還銀行が右交換規則に従い手形交換所加盟銀行の代理交換委託者としてなした行為であつて、右手形の支払義務者の代理人としての行為ではないから、被告協会は右の預入行為により右手形の支払義務者に右預り金の返還義務を負担するものではないと解するのが相当であり、従つて右手形の支払義務者は直接被告協会に対し右提供金の返還請求権を有せず、また右交換所提供金は前記の如く単に右手形の支払義務者に支払能力のあることを証明する手段として提供するに過ぎないものであつて、手形債務自体を担保する性質を有するものでもないから、右手形の支払義務者を執行義務者とした強制執行における第三債務者を、その手形交換所(被告協会)とするのは正当でなく、右返還銀行(小倉信用金庫)をもつてその第三債務者とするのが正当であると解せられる。しかしながら、もし相手方丸和商事株式会社の被告協会を第三債務者とする本件強制執行(債権差押並びに取立命令)に応じて、被告協会が本件異議申立提供金三〇万円を相手方に直接支払つた場合には前叙の次第よりして本来右弁済は受領権限のない者への弁済と目されるが、本件異議申立提供金がもともと本件約束手形の支払義務者である前記とりや商店より右返還銀行である前記小倉信用金庫に対し委託されたものであるとの前叙事実関係の下では、民法第四七九条の法意により右とりや商店の小倉信用金庫に対する右金三〇万円の委託金返還請求権が消滅するものと解するのが相当であるから、もし本件訴訟において被告が敗訴して本件異議申立提供金を原告に直接支払つたときは、もはや右とりや商店は法律上小倉信用金庫から右委託金三〇万円の返還を受け得なくなるものというべきである。而して、抗告人提出の疏明資料である福岡国税局長作成の滞納税額証明書及び小倉税務署大蔵事務官作成の差押調書写によれば、抗告人が補助参加申立理由で主張するとおり、抗告人においてすでに右とりや商店に対する金三一万四、五一九円の税金滞納による差押処分として、同商店が右小倉信用金庫に対して有する右委託金三〇万円の返還請求権を差押えていることを窺うに充分である。されば抗告人は本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有することは明らかであるので、抗告人の本件被告補助参加の申立は適法であつて、これを許容しなければならない。

よつて、これと異なる原決定を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九四条を適用して主文のように決定する。

(裁判官 岩崎光次、入江啓七郎、小川宣夫)

抗告理由〈省略〉

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